こんにちは、わとそんです!今まで読んだ本はこちら。
今回は作家である雨森零さんの著書、首飾りを紹介します。
すごく素敵な文章を書く方なのですが、なんと2作品しか世に出ていないのです!
すでに絶版になっていて今から手に入れることは難しいですが、図書館に置いてあると思うので、よければ手に取ってみてくださいね。
雨森零とは?
まずはじめに、作者の雨森零さんについて簡単に紹介します。
雨森零さんは、山形県出身の小説家です。1994年に今回紹介する「首飾り」で第31回文藝賞を受賞しています。
1996年、2作目の「月の裏まで走っていけた」を発表しています。しかし、その後は作品の発表がありません。
「首飾り」と「月の裏まで走っていけた」は書き方も内容も異なりますが、共通してひとりの女の子と、ふたりの男の子が出てきます。三人の関係が変化していく様を、とても繊細に表現しているのが特徴です。
「首飾り」はどんな話?
それでは、作品について少しお話しますね。
舞台となっているのは「虹沢」と呼ばれる山奥の集落。主な登場人物は、そこに暮らす秋(しゅう)、なな、そして主人公である、れい。物語は「れい」の視点で語られています。
まだ小学校低学年のころ、れいは虹沢にやってきました。学校生活に馴染めずにいたれいですが、虹沢で秋に出会い、すぐにその魅力に惹かれていきます。
秋がやることは僕もできる。れいはそう信じているし、実際、秋ができることはれいもできたのです。ただ、女の子であるななは、そうはいきません。
三人が三人とも、「もう一人」の存在に苛立ちを感じ始めます。いつでも三人一緒だったのに、それが段々と難しくなっていく過程が繊細な描写で書き進められていきます。
淡々と進む物語と、匂いを感じるほどに濃密な情景描写。夏の雨の前の蒸し暑さも、冬の痛いような寒さも、リアルに感じることができます。三人が使う独特な方言も、どこか懐かしさを感じます。
いつまでも同じ場所にはいられないこと。外の世界とかかわるということ。
青春の甘酸っぱさに胸が詰まるような物語です。
「首飾り」のおすすめエピソード
全体を通して素敵な物語ですが、特に綺麗だと感じるエピソードを紹介します。
中学生になった秋となな。ある日、二人は大きな喧嘩をしてしまいます。そのことがきっかけで、秋がななを好きだという事を知ってしまうれい。
しかし、一緒に過ごした時間の長さが秋を苦しめます。相手がななというだけで、まるで別人のようになってしまい自分の気持ちを表現できずにいました。なな以外の女の子に対する愛情表現がまっすぐだった分、れいは秋の意外な一面を目の当たりにして戸惑います。
ある日、学校の帰りに三人は子供のころからよく来ている沼に寄り道をしました。水は濁っていて底を見ることはできず、さらに倒木などもあってとても泳げるような場所ではありません。
そんな場所で、秋は木の上から沼に向かって飛び込んでみせるのです。
飛び込んだものの、なかなか秋は水面に顔を出しません。濁った沼の中、どこに岩があるかもわからない。
れいとななは、何度も秋の名前を呼びます。しかし秋はいつまでも姿を見せません。
もうどれだけ経ったかわからない。でも、あっという間の出来事だったかもしれない。
ふと、れいはあることに気付きます。
狂ってる。れいは思いました。私も思いました。秋は狂っています。でも、そうするしかななに気持ちを伝えられないのです。
秋をそこまで追い込んだのは、ななのことが大好きだという、どうしようもないほどの気持ちだったのです。
どこで読める?
他にも三人のバランスが静かに美しく崩れていくエピソードがたくさん綴られています。
とにかく表現が綺麗なので、作品を読んでいただけたらと思います。
古本屋で手に入れるのも難しいかもしれません。そのため冒頭でもお伝えしたように、図書館で探すことをオススメします。
ちなみに、私がこの物語と最初に出会ったのは高校受験の赤本です。現代文(国語かな?)の小説の問題で取り上げられていました。
試験問題なのに、とても綺麗な情景が書かれていてとても気になり、原作を取り寄せて一気に読んだのは中学生の頃でした。他にも赤本には長野まゆみ先生の「鳩の栖」も載っていて、試験問題の作成担当にそっち方面が好きな方がいたのかな、なんて今となって思っています。
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